毎日ウイルスウイルス聞かされたので、うっかりウイルス本を買ってしまったが、意外にもめちゃくちゃ面白かった。

ウイルスは悪者か

毎日のように「ウイルス」という言葉を耳にしていたからだろう。普段なら見向きもしない本を何故か手にしていた。

『ウイルスは悪者か』

著者は高田礼人。1968年生まれの北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授。ウイルス研究者だ。

本書は著者が2006年12月、エボラウイルスを探しにザンビアの森へ入るところから幕を開ける。

目的はウイルスの宿主と思しきオオコウモリの捕獲だ。

捕まえたオオコウモリを、野営のラボで採血するシーンはこちらまでドキドキしてしまう。なにしろ相手はエボラウイルス感染が疑われるコウモリなのだ。うっかり噛まれたり、採血した血液を浴びたりしたらたまらない。エボラウイルスの人への致死率は50〜90%とも言われているのだから。

本書はまるで良質なドキュメンタリー映画のように構成されていて、学術書のような難しさも無ければ、「ウイルスについて学ぼう」的なお勉強本の堅苦しさもない。

著者紹介欄からもそれは一目瞭然だろう。

なにしろ紹介欄には「好きな食べ物はツブ貝とカツオ、ビールはエビスか黒ラベル。タバコはピースライト」などと書かれている。お茶目な研究者が書いた一冊なのだ。

それにしても本書を読んで、研究という仕事も大変なものだと知った。

なにしろフィールドワークはザンビアだけに留まらない。日本国内はもちろん、ある時はアラスカの永久凍土へ鳥の糞拾いに。またある時はインドネシアのライブバードマーケットでの調査へ。と世界あちこちを駆け回っている。

ちなみにライブバードマーケットとは、食肉用の鳥獣を生きたままケージに入れて販売している市場で、ウイルスの宝庫かつ感染の拡大現場とされている。

これは体力がなければとてもやれない仕事だ。ましてや常に未知のウイルスと隣り合わせである。

著者は時に自ら作成したワクチン(もちろん未承認)を摂取して現地に赴く様を記述しているが、さもありなんだ。

読者はそんな著者の体験を読み進めるうちに、自ずとウイルスへの知見を深めていくことになるだろう。

・そもそもウイルスとは何か?
・なぜ鳥には無害で、人で発症するウイルスがあるのか。
・なぜ毎年のように新しいウイルスが生まれるのか。
・エボラウイルスはなぜ自らの生存に必要な宿主(人)を殺してしまうのか。

などなど、基本的な事からしっかり解説されている。図表が豊富なのもありがたい。ウイルスについて漠然とした知識しかなかった僕にとっては大きな学びの書となった。

ところで、著者は小学3年生の頃から剣道を嗜んでいるという。

剣の世界には、剣を交える事で相手を理解し、共に向上を目指すことを説く「交剣知愛」という言葉があるそうだ。病原性の高いウイルスと、剣を交えるがごとく研究を続けてきた著者が、20数年かけてたどり着いたのがこの「交剣知愛」の境地だ。

著者はウイルス研究を続けるなかで、ウイルスを単なる人類の敵だとは思えなくなっていく。その心境の変化と理由を、読者は本書を通じて追体験することとなるだろう。

本書が『ウイルスは悪者か』と名付けられた理由はそのためだ。

そう。この書名はそれが理由なのだろうが、あまりにも本編のドキュメンタリー部分が良質な冒険譚であること。また、僕のようなウイルスの素人にとっての本書の果たす役割の大きさを鑑みると、もう少し多くの人々の興味を引き付けるタイトルが付けられなかったのかと、他人事ながらコロナパニックの今、悔やまれる。